放射線の量と単位
放射線に関する量は、その目的に応じて異なった量が定義されています。
それらは以下3つに大別することができます。
物理量:物質と相互作用の結果物質に付与されたエネルギーに関する量
防御量:放射線防御の目的のために使われる量で、これにより管理がされる
実用量:実測できない防護量を推定するために別途定義される計測のための量
物理量
エックス線が物質に当たった場合の相互作用、一般にエックス線のエネルギーはその一部が2次電子に移り(エネルギーの転換)、その二次電子が電離や励起を通してエネルギーを物質中に与える(エネルギーの沈着)という2段階を経る。各々の段階に応じて、二つの物理量が定義されている。
ある単位質量の物質中で、エックス線のような電荷をもたない放射線(間接電離放射線という)によって発生した二次荷電粒子の初期運動エネルギーに移ったエネルギーの総和をカーマと定義します。
例えば、エックス線管構造規格において、利用線錐以外の方向の遮蔽能力を定める場合に、空気カーマ率で規定している。
一方、直接または二次荷電粒子を介して間接的に単位質量の物質に付与されたエネルギーを吸収線量と定義している。これが被ばく線量に関する最も基本的な量である。
これら2つの量は、いずれもエネルギー質量で割った単位となるが、特別な名称としてGy(グレイ)が用いられます。
1Gy=1 J/kg
2:防護量
一般に放射線が人体に与える影響は、放射線によるエネルギー付与量だけではなく、放射線の種類(線質)、着目する影響の種類、被爆する時間など多くのパラメータによって異なることが分かっています。こうした放射線影響そのものを正確に記述できる量はないが、放射線防護の目的のためには、吸収線量に線質を加味した重み付けをした線量が用いられます。
等価線量=(放射線加重係数)×(組織・臓器当たりの吸収線量)
放射線加重係数は、エックス線では1としています。その他の放射線では、例えば電子は1,陽子は2,アルファ線20、中性子線はエネルギーによって2.5~20の値が定められています。この係数は無次元なので等価線量の単位もJ/kgとなりますが、この単位では吸収線量と区別がしにくいため、Sv(シーベルト)という単位が用いられます。エックス線では、吸収線量と等価線量は数値として同じとなりますが、各々の意味合いが大きく異なることは注意すべきです、
皮膚や水晶体のような組織において放射線影響が発生しないことを確認するための防御量としては等価線量が用いられます。一方、発ガンのような発生確率が線量とともに大きくなるような影響(確率的影響)に対しては、個々の臓器の危険性を考えるより全身にわたって平均するほうが望ましいです。そこで、がん発生部位および生殖腺(遺伝的影響を想定)被ばくによる損害割合を推定し、その相対割合で加重して足し合わせたものを実効線量と定義しています。
実効線量=Σ(組織加重係数)×(等価線量)
組織加重係数は以下の通りです。
組織臓器=骨髄、結腸、肺、胃、乳房 組織加重係数=0.12
組織臓器=生殖腺 組織加重係数=0.08
組織臓器=膀胱、肝臓、食道、甲状腺 組織加重係数=0.04
組織臓器=皮膚、骨表面、脳、唾液腺 組織加重係数=0.01
組織臓器=残りの組織・臓器 組織加重係数=0.12
3:実用量
防御量は、人体組織(正確には、標準人のファントム)中の吸収線量に加重係数を乗じた量と定義されているので、現実には定義通り測定できない。そこで、人体組織と同じ組成を持つプラスチック(球または平板)を考え、この表面からある深さの点での吸収線量に、別の加重係数を乗じた量(線量当量)を別途定義し、実際の測定は線量当量について行うことにしている。
線量当量=(線質係数)×(ファントム内ある深さでの吸収線量)
深さとしては、1cm、3mm、70μmが選ばれている。
従って、放射線安全管理においては、実用量(1cm線量当量、3mm線量当量および70μm線量当量)で測定し、その数値をもって防御量(等価線量または実効線量)とするという手順をとります。法律上の対応関係は次の通りです。
<防御量>
実効線量の実用量は1cm線量当量
等価線量の水晶体の実用量は1cmの線量当量、3mmの線量当量または70μm線量当量のうちいずれか適切なもの
等価線量の皮膚の実用量は70μm線量当量
コメント